大坂なおみ選手I’m sorry誤訳?問題の結論。謝ったのか、謝罪ではないのか?

 

...大坂なおみ選手I’m sorry誤訳?問題の結論。謝ったのか、謝罪ではないのか?


こんにちは、イングリッシュ・ドクターの西澤 ロイです。
 
まずは、大坂なおみ選手の全米オープン優勝、
本当におめでとうございます。
 

表彰式でのインタビューでI’m sorry.と言った場面


 

インタビューの文字起こし

Naomi: I’m gonna sort of differ from your question. I’m sorry.
(ちょっと質問とは違うことを答えます。ごめんなさい
 
――No problem.
(問題ないですよ)
 
Naomi: I know that everyone was cheering for her.
(みんながセリーナの応援をしていることは知っていました)
 
I’m sorry it had to end like this.
(こういう結果になってしまってsorryに感じます
 
I just wanna say thank you for watching the match. Thank you.
(言いたいことは、試合を見てくれてありがとうございました)
 
ここでの大坂なおみ選手の発言が
「謝っている」のか、
それともそうではないのか、という議論が
一部で起こっています。
 
メディアでは
「勝ってしまってごめんなさい」
「こんな結果になってしまってごめんなさい」
「こんな結果になってしまって残念です」

などいろいろと報道されています。
 
「ごめんなさい」というのはメディアの誤訳であり、
「残念だ」と言っているだけなのでしょうか。
 
その問題について、まとめました。
 

結論から先に言います

まず、結論から先にお伝えしたいと思います。
 
大坂なおみ選手は「謝って」いました。
 

証拠動画1:記者会見&文字起こし

――Why did you feel like you needed to apologize for doing what you set out to do?
(自分で歩むと決めた道を進んでいるのに、謝罪する気持ちになったのはなぜですか?)
 
Your question making me emotional…
(その質問には落ち着いて答えられないかもしれませんが)
Because I know that she really wants to have the 24th grand slam, right?
(セリーナは24個目のグランドスラムのタイトルが欲しかったわけです)
Everyone knows this. It’s on the commercials. It’s everywhere.
(みんなそれを知っています。至るところでコマーシャルで流れていました)
 
When I step onto the court, I feel like a different person, right?
(テニスコートに一歩踏み入れると、別人に切り替わるわけです)
I’m not a Serena fan. I’m just a tennis player playing another tennis player.
(セリーナのファンではなく、別の選手と戦う一人の選手になります)
But when I hugged her at the net… Sorry.
(でも、勝敗が決して、彼女とネットのところでハグをしたら……ごめんなさい)
 
Anyway, so when I hugged her at the net, I felt like a little kid again, so…
(とにかく、彼女とネットのところでハグをしたら、幼いころの自分に戻った気がして……)
 

証拠動画2:TVトークショー&文字起こし


 
――One of the most poignant things I think happened during the trophy ceremony,
(表彰式で起こった最も胸を刺すような出来事の1つが)
you just… you sort of apologized for doing what you had set out to do in a way.
あなたがある意味で謝ったことです。それを目指してやってきたことなのに)
――Tell us about that moment.
(その瞬間について教えてください)
 
I don’t know. I just felt like everyone was sort of unhappy up there.
(よく分からないですけど、みんながあそこで嬉しくないということは感じていました)
I know that it wasn’t really like the ending wasn’t how people wanted it to be.
(試合の終わり方が、みなさんの思っていた形ではなかったですから)
I know that in my dreams I won like in a very tough competitive match, so
(私の夢の中でも、もっと激しく均衡した試合を勝つ予定でしたし)
I don’t know. I just felt very emotional.
(よく分かりませんが、いろんな感情があふれてきて)
And I felt like I had to apologize.
謝らなきゃと思ったんです
 

この問題の本質はそこではない

ということで、結論としては、大坂なおみ選手の
I’m sorry it had to end like this.
という発言は
「こういう結果になってしまってごめんなさい
と訳して問題ないと思います。
 
ただし、大事なのはそこではないのです。
 
なぜなら以下の、全く同じ発言を、謝罪ではなく、
単に「残念だ」という意味で言うこともできるし、
むしろそう言う人の方がずっと多いからです。
 
I’m sorry it had to end like this.
そういう結果になってしまって残念です。

 
でも、私たち日本人は、I’m sorry. と聞くと
「謝っている」と短絡的に思ってしまいがちです。
 
そこについて、もう少し深く見てみましょう。
 

I’m sorry には3つの意味がある? そもそも sorry ってどういう意味?

I’m sorry.
にはもちろん「ごめんなさい」という
意味もあります。
 
しかし、それだけではありません。
上にも書きましたように「残念だ」という
意味合いでも使われます。
 
さらに、例えば誰かが亡くなった時に
I’m sorry.
と言えば「お気の毒に…」という発言にも
なるのです。
 
一体なぜなのでしょうか。
 
sorry というのは元々「心が痛む」ことを
表します。
 
類義語の sorrow は「悲しみ」です。
 
つまり、I’m sorry. というのは本来
「心が痛みます」
と言っているのです。
 

そもそも「謝罪」とは何か?

「謝ったかどうか」という話をする前に、
「謝る」という行為は一体何を意味する
のでしょうか?
 
謝罪には、3つの要素があります。
 
「良くないことをした(罪を犯した)ことを認め」、
「許しを乞う」こと。
それに加え、「感情を素直に表す」こと。
 

1.罪を認めること

1つは、失敗をしたり、誰かを傷つけたり
した時に、「それをしたことを認める」こと。
 
それは、責任の所在を明らかにすることにも
つながります。
 
ですから、車で事故を起こした時に
謝ってはいけない、というのは
「自分が悪い」という意味に解釈されて
しまうからです。
 

2.許しを乞う

2つ目は「許しを乞う」こと。
 
日本語でも「ごめんなさい」という言葉は
「免」という漢字ですよね。
 
これは「罪を免(まぬが)れる」という
ことです。
 
謝ることによって、相手に許してもらう
ことにつながりますよね。
 

3.感情を素直に表す

3つ目として、感情的な側面も
あるでしょう。
 
そもそも、気持ちを込めずに
「ごめんなさい」とか I’m sorry.
と言ったところで、相手はそれを
謝罪だとは受け取らないでしょう。
 
素直に、申し訳ないという気持ちで
言わないと、伝わりませんよね。
 
さらに言えば、
「あんなことをしなければよかった」
と悔やんだり、
「もう二度としません」
などと涙を流して約束したりする場合
だってありますよね。
 
ということで、分析をするならば、
謝罪には3つの側面が含まれると
言えます。
(別にすべてが必須ではありません)
 

大坂なおみ選手の「謝罪」は?

今回の、大坂なおみ選手による
I’m sorry it had to end like this.
という発言に関していえば、
1と3が当てはまる、と言えるでしょう。
 
観客はみんなセリーナの勝利を期待している。
そんな中で、自分が勝利するという結末が
あったわけです。
 
それが「罪」かどうかはおいといて、
彼女は少なくとも
「(観客にとって)良くはない結果」
だと感じたわけです。
 
そして、それに対して素直に
I’m sorry it had to end like this.
という言葉が出たのではないでしょうか。
 
なお、一部のメディアで
「勝ってしまってごめんなさい」
と報道されていましたが、そこまで訳して
しまうと誤訳と言ってもいいかもしれません。
 
また「謝“罪”」という表現も言い過ぎかも
しれないと思いますね。
 


  • この記事を書いた人

    イングリッシュ・ドクター 西澤ロイ

    イングリッシュ・ドクター(英語のやさしい“お医者”さん)。
    英語が上達しない原因となっている「英語病」をなおす専門家。
    TOEIC満点(990点)、英検は4級。獨協大学英語学科を卒業。言語学を専攻。

    著書に「頑張らない英語」シリーズ(あさ出版)、新刊『英語学習のつまずき50の処方箋』(ディスカヴァー21)など、計11冊で累計17万部を突破(書籍の一覧はこちら
    日本人が「英語ができない時代」を終わらせることを目指して日々活動中。