「マンホール(manhole)」が性差別的だという「痛いニュース」が本当に痛かった件

 

...「マンホール(manhole)」が性差別的だという「痛いニュース」が本当に痛かった件


こんにちは、イングリッシュ・ドクターの西澤 ロイです。
 
先日、ツイッターを見ていたら、「痛いニュース」として

「マンホール」は性差別「メンテナンスホール」へ改名

という情報を見つけました。
 
Yahoo!ニュースの詳細を引用しますね。

カリフォルニア州のバークリー市議会は、「manhole(マンホール)」は性差別的だとして約30の用語を見直しする条例案を全会一致で可決。ジェンダー問題の意識の高まりを受けたもので、市の条例などで使われている性差別的とみられる擁護者代名詞を中立的な表現に差し替えていくという。

この条例で、例えばマンホールは「メンテナンスホール」
(中略)
に言い換えられる。

 
本来、これが「痛いニュース」だと言われている理由は、
PC(Political Correctness:政治的中立性)による
言い換えが行き過ぎているという印象があるからでしょう。
 
でも実は・・・この言い換え、英語的にも、非常に「痛い」のです。
 
どういうことかと言いますと、まず
manhole(マンホール)
という単語のman-は「男性」という意味ではありません。
 
Why are manholes called manholes?
というページにはこう書かれています(以下、ロイ訳)。
 

The term manhole comes from the 19th century and originally referred to a small access hole in the top or side of a boiler that was covered with a heavy metal plate bolted in place.
(「マンホール」という言葉は19世紀に生まれた。元々はボイラーの上や横についている小さな穴――「点検口」のことを指し、重い金属の蓋がボルトで固定されていた)
These holes were not meant to provide access for a man to pass through, but for an arm and hand to reach the inner parts of the boiler.
(この穴は人が通れるようなものではなく、ボイラーの内側に手を入れるためのものだった)
“Man” in this case refers not to the gender of the worker, but is from the root word that means “hand,” as in the word “manual.”
(このケースにおける”man”とは労働者の性別を指しているのではなく、「手」を意味する語根であり、単語manualと同様)
Indeed, some old boiler manuals use the words “manhole” and “handhole” synonymously.
(実際、ボイラーの古いマニュアルの中には、「マンホール」だけでなく「ハンドホール」という表現を同じ意味で使っているものがある)

 
そう、manhole の man- は「手」という意味なんです。
 
同じ接頭辞をもつ単語をいくつかご紹介します。
 
manual(マニュアル、説明書)は本来、「手」の動かし方を
教えてくれるものだったんです。
 
manicure(マニキュア)は「手」の指に塗りますよね。
 
maneuver(操作する)も、やはり「手」を動かすこと
から来ている動詞なのです。
 
そして、このニュースの痛いところがこれ(↓)です。
 
manhole ではなく「maintenance hole」と呼ぶとの
ことですが、maintenance という単語も、
この「man-」という接頭辞の違う形、
「main-」が入っているんですよ!
 
maintain は「維持する」と訳されますが、
main-が「手」、-tainが「保つ」、つまり、
「手で持ち続けること」が本来です。
 
そこから「維持する、持続する」という
意味で使われるのです。
 
もちろん、これは語源の話であり、
今は多くの人にとって、manhole とは
「人が通る穴」に聞こえてしまうのかもしれません。
 
でも、同じ「手」を意味する接頭辞がついた
maintenance hole にまさか取って代わられるとは、
manhole も浮かばれませんね。
 


  • この記事を書いた人

    イングリッシュ・ドクター 西澤ロイ

    イングリッシュ・ドクター(英語のやさしい“お医者”さん)。
    英語が上達しない原因となっている「英語病」をなおす専門家。
    TOEIC満点(990点)、英検は4級。獨協大学英語学科を卒業。言語学を専攻。

    著書に「頑張らない英語」シリーズ(あさ出版)、新刊『英語学習のつまずき50の処方箋』(ディスカヴァー21)など、計11冊で累計17万部を突破(書籍の一覧はこちら
    日本人が「英語ができない時代」を終わらせることを目指して日々活動中。