こんにちは、イングリッシュ・ドクターの西澤ロイです。
つい先日、このようなニュースが出ていました。
英語能力ランキング 日本は過去最低の92位 若年層が低迷
このランキングは、EFエデュケーション・ファーストという
会社によって2011年から毎年公表されているもので、
英語を母国語としない116の国・地域における英語能力指数を
ランキング形式にしたものです。
2023年に約210万人が受験したEF社のテスト結果(最高が800点)に基づいて
算出されています。
公表されたデータからは以下のようなことが分かります。
・受験者全体の平均指数は477ポイント
・日本は平均454ポイントで第92位(116ヶ国・地域中)
・アジアでは23ヶ国中16位
・2011年の調査開始以来、日本の順位は下がり続けている
このような情報を元に「日本人は英語が下手だ」などと言い出す人が一定数いますが、そういう短絡的な結論は出さずに、データをしっかりと分析していきましょう。
信頼性の問題
そもそもEF社の英語テストは、インターネット上で誰でも無料で受けることができます。
世界中で年間約200万人が受験しているそうですが、例えばTOEICテストであれば日本だけで200万人が受験しています。
一体どれだけの、どんな日本人が受験しているのか、母数が公開されていないため、データとしてどこまで信頼できるかが分かりません。
母数に関して明らかなのは400人以上の受験があった116の地域が対象になっている、というだけです。
因みに、北米などへの留学時によく使われるTOEFL(トーフル)という試験があります。
これは年間70万人が受験しており、そのうち日本人が約8万人です。
以前はTOEFLのスコアによって、各国の英語力ランキングが作られていました。
しかし今ではTOEFLの実施元であるETSによってそれは「データの間違った使い方」であるという指摘がされています。
地域差も大きいですし、TOEFL試験を受ける人は、国によっては一部のエリートだけというケースもあります。
ですから、単純にスコアの比較はできないのです。
例えばですが、日本のスコアは454ポイントであり、464ポイントのモンゴルに負けているように見えます。
しかし、首都におけるスコアを見ると東京は496ポイント(+42)であり、地域差がかなりあることが分かります。
それに対してモンゴルのウランバートルは466ポイントでわずか2ポイントしか変わりません。
これは、モンゴルの受験者はあまり多くなく、また都市部に集中していることが分かります。
とにかく、東京とウランバートルで比較すると逆転現象が起こり、日本のほうが30ポイント上回るのです。
繰り返しますが、無料で誰でも受けられるテストであり、母数について詳しいことが分かりません。
ですから、他国との比較はしないことが大切です。
日本の英語力がどんどん下がっている?
上にも書きましたように
「2011年の調査開始以来、日本の順位は下がり続けている」
と言われています。
ただし、これは「数字のマジック」という要素が強いです。
2013年は26位(60ヶ国・地域中)
2014年は26位(63ヶ国・地域中)
2015年は30位(70ヶ国・地域中)
2016年は35位(72ヶ国・地域中)
2017年は37位(80ヶ国・地域中)
2018年は49位(88ヶ国・地域中)
2019年は53位(100ヶ国・地域中)
2020年は55位(100ヶ国・地域中)
という感じで、だんだん参加国が増えただけであり、日本はずっと真ん中辺りキープしていました。
ただし、2021年からはガクンと順位が下がります。
2021年は78位(112ヶ国・地域中)
2022年は80位(111ヶ国・地域中)
2023年は87位(113ヶ国・地域中)
2024年は92位(116ヶ国・地域中)
タイミング的にはコロナ禍が原因に思えるかもしれませんが、
一体、何が起こったのでしょうか?
まずは2011年から2024年の、日本人のポイント推移のグラフです。
(以下、グラフはEF社のデータを引用します)
確かにこれを見ると全体的に右肩下がりであり、
2021年からスコアが特に下がっているように見えます。
でもここで、年代別のデータ(2015年~2024年の10年間分)をご覧ください。
まずは26歳以上のデータです。
はい。特に下がっていないですね。
では、もっと若い人のスコアの推移をご覧ください。
そう。ここなんですよ。
日本人の英語力が下がっているのではなくて、日本人で18歳~25歳の若い人たちの英語力が、どんどん下がっている――という話なのです。
若い日本人の英語力が下がっている原因
原因としてはいろんなことが考えられます。例えば、
学校における英語教育の失敗?
があるかもしれません。
例えば、2011年から小学校5~6年生への英語教育が必修化されました。
それによって、英語嫌いが若年化しています。
また、2013年から高校の英語の授業は「英語で行なうことを基本とする」形に変わりました。
今ではさらに(2021年より)、中学でもオールイングリッシュでの指導になっています。
こういった、様々な改革がうまくいっていない可能性が十分に考えられます。
コロナ禍の影響
そしてもちろん、コロナ禍による影響も十分に考えられます。
それまでの英語力の低下に、コロナ禍が拍車をかけた図式です。
学校が休校になり、授業が十分に実施されなかったりもしましたし、
留学する人の数も以前よりも減っています。
ご参考までに以下は、日本の大学等が把握している日本人学生の海外留学状況です。
(「トビタテ!留学JAPAN」より引用)
さいごに
ということで、「日本人の英語力が下がっている」というよりも、「日本人の若い人の英語力が下がっている」ことが今回のEF社のデータから明らかになりました。
学校における英語教育において様々な変更がなされてきていますが、根本から考え直す必要があるのかもしれません。
「日本の英語教育をどうするべきか?」というテーマについてはまた別の機会に語ろうと思います。